こんにちは。mi-Reiです。
政令指定都市の片隅で事務職しています。休みの日は本を読んでいます。
先日、趣味で毒物劇物取扱者試験を受けて、合格しました。
大学を化学系で卒業したので、実は試験を受けなくても毒物劇物取扱責任者にはなれるのですが、法令や個々の毒劇物について勉強したかったので、あえて試験を受けました。
さてそんな矢先、書店を歩いていると1冊の本が目に留まります。
「毒薬の手帖」(河出文庫)
タイトルだけ見て買ってしまいました。
今回は、「毒劇の試験に合格した人が『毒薬の手帖』を読んでみた!」ということで、この本を紹介します!
どんな本?
一言でいってしまうと「毒の世界史」でした。
少し概要を説明します。
1984年に初版が出されたもので、著者は澁澤龍彦(1928~87)、エッセイを中心に書いていた小説家です。わたしが購入したのは文庫版(第26刷)で、全263ページでした。見たところ若干文字が小さめで、ちょっと難しい言い回しをしているのかな、という印象。
目次を見ると、
“古代人は知っていた” “ふしぎな解毒剤”
など、小説のタイトルのような13項目の見出しがあり、パッと見で
「短編集かな?」
と思いました。でも読み進めてみるととんでもない。古代から20世紀まで、著者が文献を調べてまとめた「毒薬の歴史集」というほうが、合っているように思いました。
むずかしくない?
しっかり読み深めようとするとギリシア神話や古代~20世紀ヨーロッパ史についての教養が必要ですが、
「へぇ~そうなんだ」
という感じで読み進めることもできます。
わたしは昨年1年間かけて「1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365」という本を読んでいて、「この名前どこかで見たことある!」という字面が出てきましたが、すぐに詳細をリンクさせることができず、「入り口的な知識だけではまだまだだな」と自分の勉強不足を痛感したほどです。
rei-intellectual.hatenablog.com
「毒薬というとものすごく理科や化学の知識が要るんじゃないか」
と思われるかもしれませんが、むしろ世界史(近世ヨーロッパ史)好きな方のほうが、歴史に「毒」というスパイスが効いて面白く読めるんじゃないかなと思います。
毒劇の試験を受けた理系の目線
「歴史の本だったら、理系の出る幕なくない?」
いえいえ、そんなことはございません。
確かにここまでの流れだと理系のわたしが読んだ意味が薄れてきますので、ここからは理系目線でおすすめの読み方を紹介したいと思います。
・理系の人におすすめの読み方
この本の構成上、古代から時系列で毒の歴史を辿ることになるので、理系が興奮する化学的な話はどうしても後半になるにつれて多くなってきます。だって科学・技術は時代が進むにつれて進歩していますよね?
ですので、この本の後半、特に産業革命以降を特集している“毒草園から近代科学へ”という項目から読み進めていくのがおすすめです。
毒物劇物取扱者試験の出題範囲である砒素やニコチンについての記述もありました。
いったん最後の項目の終わりまでたどり着いたら、今度は冒頭に戻って古代から読み進めてみましょう。
中世以前はまだまだ毒物劇物の研究が進んでおらず、呪術と結び付けられていたという記述にも出会いますが、あるエピソードに出てくる昇汞(しょうこう)は塩化第二水銀で、毒物及び劇物取締法に定められているれっきとした毒物です。
(ちなみに甘汞(かんこう)と呼ばれる塩化第一水銀は劇物です。ここ試験に出るかもね。)
・文系の人におすすめの読み方
素直にこの本の冒頭から読み進めていくと良いと思います。毒物となるとどうしても生死が問題になってきますので、残酷な描写が時折あるので注意が必要です。毒物が使われた殺人事件やエピソードが紹介されていて、その事件の背景や動機、犯人の生い立ちにいたるまで詳しい説明もあるので、サスペンス・ミステリー好きには自信をもってお勧めできます。
またこの本の前半で取り上げられている、毒物劇物に関する法規制が何もなかった時代、人々は、たとえ国王であっても、毒による恐怖におびえていなくてはなりませんでした。
1682年にフランスのルイ14世が毒殺を罰する法律をつくったくだりは、現在の刑法・毒劇法の先駆けであるように感じられます。
毒物そのものに詳しくなかったとしても、法規制が存在する理由を感じていただけるんじゃないかなと思っています。
まとめ
古代~20世紀までの毒に関するエピソードがまとめられた「毒薬の手帖。」
毒という切り口で眺める世界史、歴史からたどる毒の化学、おのおのの目線で楽しんでみてはいかがでしょうか。