こんにちは。mi-Reiです。
インドア生活のお供と言えば読書!本!
「最近退屈で、何か面白い本ないかな~」という人に、今日は小説を紹介したいと思います。
伊坂幸太郎さんの「ガソリン生活」です。
伊坂幸太郎さんといえばデビュー作「オーデュボンの祈り」から始まり、「ゴールデンスランバー」や「重力ピエロ」といった作品が有名ですが、今回紹介する「ガソリン生活」は、2013年に単行本出版された、初期作品にはない一冊です。(文庫本は2016年出版)
この作品の面白いところは、なんといっても「話の目線が人間ではない」というところでしょう。では誰目線で物語が描かれているのか。「車の目線」なのです。(実際には目がないのでこの表現自体不自然ですが。)
物語の中心にいる人物は20歳の良夫(よしお)と、10歳の弟、亨(とおる)。彼らのまわりで起こる日常と事件が、良夫の愛車、緑のデミオ(緑デミ)の視点で描かれています。物語は車の中での人間の会話や車同士の会話を通して進みますが、状況描写がしっかりされているので、安心して読み進めることができます。
車目線の会話に垣間見える「車輪をもつ乗り物の世界(というか社会)」
乗り物の車輪の数が増えるにつれて知能が上がっていく、というのは面白い設定です。
乗用車の立場だと、
二輪車→話が通じない。
乗用車→対等
踏切などで稀に出会う電車→高尚
といった具合です。
車の目線だからこそできる独特の表現もいい味を出しています。例えば、「開いたボンネットがふさがらない。」わたしにはこの表現がツボでした。
登場人物の発した何気ない「歯医者」という言葉を、緑デミが「廃車」と聞き違えて怯えるところなんかはまさに秀逸です。
また、ハトのとまる木の下に駐車された車の気持ちにもなってみて下さい。落ちてくる(かもしれない)その半液体に不安を抱え、怯えています…
作品間リンクも健在!
忘れてはならないのが、いわゆる伊坂ワールド、他の伊坂作品とのリンクです。この作品では「オー!ファーザー!」とのリンクが楽しみポイントです!
独特の読後感
この作品を読んでわたしが感じたのは「視点をずらすことの面白み」でした。
感情をもたない“もの”に感情があったなら、考えること。
車をもっている方であれば「もしこの車に感情があったなら、どんなふうに思われているだろう?」と考えを巡らせてみるのも面白いと思います。
わたしは車をもっていませんので、自分の身近なものにどう思われているか考えてみました。
私事ですが、中学校入学のとき両親に買ってもらった腕時計を今でも使っています。ソーラー電池で動く電波時計なので、物持ちが非常に良く、プライベートでは現役です。この時計の目線でわたしの前半生をたどってみると、なかなか面白かったです。
腕時計は手首にまかれているものだから、「脈拍に関してはわたしよりも詳しいだろうな」と考えたりもしました。もしこの腕時計と会話できたら、
「あのとき実はめっちゃ緊張してたやろ? 脈拍のテンポ、尋常じゃなかったで。」
とか言われるかもしれません(笑)
人によっては、読後に妄想の捗る一冊になるかもしれませんね。
この「自分以外の目線で自分を眺めること」に気づかせてくれる点は、
「他のひとからどう見えているんだろう」
という、他のひとの気持ちになってみることにつながるだろうなと感じられて、わたしは少しほっこりしました。
いろいろなことに対する新鮮な見方を与えてくれる「ガソリン生活」。今回はあえてストーリーには踏み込まず、作品の性質に焦点を当ててみました。
528ページというボリュームで、しっかり読みたい方には申し分ない分量だと思います。
この機会にぜひ読んでみてはいかがでしょうか。